スペシャル イベント ベルシステム24 ワークスタイル 全国
元厚生労働省事務次官 村木 厚子氏 特別講演

「働き方改革はなぜ必要か?」 後篇

母として、妻として、一流のビジネスパーソンとして、国の働き方改革を先導してきた村木氏の講演を前後篇でお届け。

ナツママ

村木氏は、厚生労働省4人目の女性局長として、2008年に雇用均等・児童家庭局長を務めた後、内閣府政策統括官、厚生労働省社会・援護局長を歴任され、2013年7月から2015年10月まで厚生労働事務次官を務められました。そして、現在は伊藤忠商事の社外取締役に就任するなど、多忙な日々を送る傍ら、各地で「働き方改革」をテーマにした講演も多数開催しています。

当社本社のある晴海トリトンスクエアにて「働き方改革はなぜ必要か」と銘打ち、村木氏の講演会が実施されました。

満席の会場
真剣な表情で聞き入る参加者

講演会前半は、現在の働き方改革が出来てきた背景や、いま日本が抱える問題点、なぜ働き方改革が必要なのかについて、データに基づき解説いただきました。

後半は、国の働き方改革の推進とともに、現在、各企業が取り組む改革について、実際の事例を交えて語っていただきました。

村木氏

村木 厚子むらき あつこ

1955年 高知県生まれ
1978年 高知大学卒業、労働省(現厚生労働省)に入省し、女性政策、障がい者政策などに携わる
2008年 同省雇用均等・児童家庭局長
2012年 同省社会・援護局長
2013年7月〜2015年10月 同省厚生労働事務次官

現在は、伊藤忠商事社外取締役(2016年6月ご就任)
津田塾大学客員教授、SOMPOホールディングス監査役などに就任。

全国での講演や執筆など、多方面でご活躍中。

改革に成功する企業のゆるぎない共通点。ポイントは3つ

国をあげて取り組む「働き方改革」、各企業でもさまざまな取り組みを推進しています。これまで国の政策担当者として、各企業の成功事例や失敗事例を数多く見てきている村木氏。改革に成功している企業とそうでない企業に違いはあるのだろうか?

成功している会社にはゆるぎない共通点が3つある。」と言う村木氏。その共通点とは。

① トップの意思がはっきりしていて、思い切った施策ができる

「ある婦人服のメーカーの話です。その会社はもともと女性社員が多く、女性管理職も多かったのに、会社が大きくなるにつれて男性社員の比率が増え、女性が昇進しづらくなってきた。委員会を作ってフェアな評価をしてるはずなのに女性が昇進できない。ある選考委員会が終わった後、優秀な女性社員が昇進できなかったと聞き、社長は「なんで彼女は選考から漏れたのか」と聞きました。すると、「彼女は泣くから」という回答が返ってきたそうです。その社長さんはそれを聞いて、「泣いても売るやつの方が偉い」と言ったんですね。すぐに選考委員を全員入れ替えたんだそうです。それぐらい会社のトップのスタンスがはっきりしていると、割と古いタイプの中間管理職もちゃんと動きます。これはとても大切だと思います。

男性の育休取得についても、厚生労働省が自らやった事例ですが、面白い例があります。塩崎厚生労働大臣の時に、一ヶ月に1回、その月に赤ちゃんが生まれた男性とその上司を全員大臣室に集めます。そこで大臣が、本人と上司に「おめでとう。(育休を)取ってね、上司は取らせてね」と面前で言うんですね。そして0に近かった男性社員の育休取得率があっという間に3割超えました。これはすごい。その気になればできるんですね。

年休取得率を上げた良い事例もあります。年休の100%消化は難しいと言われていますが、そんなことはない。年休の取得期間の1年が終わった時点で、年休を使い残していたら、本人と上司の次の賞与を3割カットという施策をした事例があります。上司は、絶対に一生懸命考えますよね。年の最後の方に、「おい、ちゃんと取ったか、お前有休残してないだろうな」となります。仕事については、職場全体で分担して工夫をするようになります。あっという間に、取得率が100%になったそうです。

こういう風に会社、あるいはトップの意識がはっきりしていることが非常に大事なことなんです。」

② 働きやすさのための施策と、働き甲斐を上げるための施策を、車の両輪のように両軸で考えている

「2つ目。座標軸が2つあることが大事です。働きやすさを上げるということと、働き甲斐を上げるという2つの軸です。

「女性活躍」とか「働き方改革」と言うと、休みやすい施策、短時間でも働ける施策のことと思われているのですが、こういった施策だけを充実させすぎると「辞めないけど働かない人」が増える結果になりがちです。

今の日本の会社では、どうしても「長時間働くこと=本気で働くこと」で、「短時間働くこと=ゆるく働くこと」と捉える人も多い。休みやすい施策をいっぱいやると、結局一生懸命働く人とゆるく働く人に会社が分かれてしまう。そうではなくて、基本はみんなが「短く働いても良い働き方をする」ようにしないといけない

ゆるく働くのが悪いわけじゃありません。けれども、その場合は、「ゆるい働き方に対する評価」をしなくてはならないと思います。どういう働き方をしても、自分として、その時の過程に100%負荷をかけていくというのが必ず人を成長させるのだと、私は思います。

だから、会社は、無理をさせるのではなく、でも短時間=ゆるい、というのでもない、『短時間でもしっかり働ける』という選択肢を用意することが必要じゃないかと思います。

休みやすい施策と、負荷をかけてちゃんと働いてもらえる施策を、車の両輪のように考えられるかどうか。均等と両立を両輪で見ていく、それが大切です。」

③ すべての社員が恩恵を受ける制度を策定している

「3つ目は、最初は特定の人のための制度として始めても、できるだけ多くの人が使える制度に発展させている、ということです。

「あの人いいわよね、子供産んで何回も休んで、その分ぜんぶ私たちが背負ってあげているのよ」みたいなことがあると日本の社会ではうまくいかない。最初は女性のための制度でも、育児や介護にも使える、男性もどんどん使ったらいい、自分の勉強のためにも、自分が病気をした時にも使える、というように発展させて、みんながその制度の恩恵をうけている、という使い方がいいわけです。

私が一番びっくりしたケースは、シングルマザーをたくさん雇っている会社の表彰をした時です。表彰式が終わって企業の方と話をしていたら、「うちの会社にこんなにシングルマザーがいることが分かって本当によかった」とおっしゃるんです。
「え?シングルマザーと思って雇っていたわけではないんですか?シングルマザーのための制度を作ったわけではないんですか」と伺ったところ、違うと言うんです。その企業はシングルマザーがどれだけいるかも把握していなかった。
その企業は地域の主要企業だったんです。その地域の小学校の参観日には、その学校に子供を通わせている社員はちゃんと参加してほしい。街の代表として見本となれるように。そういった背景を受けて、休むのではなく、地域のさまざまなイベントの間だけ退出できるなど、柔軟に働ける制度を作ったんだそうです。企業としてはそれだけのつもりだった。でも結果としてシングルマザーが多くなっていた。その話を聞いて、「あぁそうか、シングルマザーのための制度でなかったからこそ、彼女たちは肩身が狭くなかったんだな、ハローワークも安心してこの企業に働き手を送り出せたんだな」と感じました。

そう考えると、どの会社もいろいろと縦割りの制度を作りたがるんですが、究極はやはり、その時々のライフステージにあったやり方で、多様な働き方を自分で選べて、かつそれをフェアに評価してもらえる。そうやって仕事をする中でちゃんと一人ひとりが成長していける仕組みを作ることが、大事なんだと思います。」

「マルチステージの人生」がやってくる

最後に、現在政府で実施している政策会議、「人生100年時代構想会議」での内容を交えて、これからの時代の働き方改革について語った。

「ついこの間まで人生90年と言っていましたが、もう100年になってしまいましたね。紹介したいのは「人生100年時代構想会議」に提出されたリンダ・グラットンというイギリスの学者の資料です。

政府の会議に、外国の学者さんが正規委員で入っているのは面白いことです。これも多様性の一つの表れだと思います。彼女はライフシフトやワークシフト関連の本を出していることで有名です。内容は、これから仕事もロボットやAIが出てきてどんどん置き換わっていく。そうすると、働く人にとって大事な要素はすごく変わってくるから、創造性だったり人間関係力だったり、そういうものが大事になってくるよね、働き方も変わってきますよ、という話です。」

出展:第1回 人生100年時代構想会議 リンダ・グラットン議員提出資料

「これまで人生は3ステージになっていた。若い時は学校で勉強して、就職して仕事をして、60か65になったらリタイアする。しかし人生100年時代になり、仕事を取り巻く環境も変化する中で、働く期間も長くなって、働き方も多様化すると、今後はマルチステージ化しますよと言っています。また人生が長くなって職業生活も長くなりますから、生涯現役、生涯にわたる学びが必要になっていくとも言っています。」

村木氏は、人生100年時代の職業生活について、横浜国立大学の二神枝 保(ふたがみ やすえ)先生の提唱する、反復するプロセスを紹介してくれました。

「まずは自分が長くできる仕事を「探索」して見つけ、「トライアル」や「チャレンジ」をして、自分の能力を「確立」し、そして「熟達」していく。そうする中で社会が変わりニーズが変わるので、また「探索」をして「トライアル」をして「確立」して「熟達」・・・という風に、何度も人生の中でこのプロセスを繰り返していく。

実は私は約37年間、ずっと役所にいて、いま(民間企業に所属して)人生2度目の探索期間に差し掛かっています。大変だし不安もありますが、これをやっていくことは楽しいことでもあります。

会社を移ってこのプロセスを繰り返す人もいますし、同じ会社の中で、プロセスを繰り返して成長していける人もいると思っています。そういう意味では、企業は多様な働き方を実現するための努力をすると同時に、変わり続けられる企業をどう作っていくのか、そして将来に向けて、学び続けられる社員、成長し続ける社員をどう増やしていくのかを、考えていかなければならないと思います。」

質疑応答

企業として「優秀」な人をきちんと登用することが何より大事であることを忘れずに、今の文化も継承していく

間接部門所属 管理職男性 昔からの文化で、長い時間働いて頑張っている人を褒めてしまうことがあり、そうなると、女性が入り込めないということがあるんです。今日の話を聞いて、そういった意識も変えていかなくてはいけないし、また、採用の面でも、認識を変えていかなければな、と改めて思いました。

村木 一生懸命やっている人を褒めるということはとても大事なことで、日本の文化としてこれは大切にした方がいいと思います。でも何より大事なことは、企業で役割を担わせるときに、優秀な人をちゃんと登用していくということです

優秀な人をきちんと登用していかないと、部下も会社も損をするわけですよね。そこはやはり一定の割り切りは必要だと思います。それに、たとえば育児・介護をしている人が、仕事ができるのに登用されないとなると、育児・介護に対するペナルティになりかねない。ひいきをする必要はないですが、育児・介護、あるいはやむを得ぬさまざまな事情についても、ペナルティをかけないために、フェアにしてあげないといけないし、その方が会社のためになるし、顧客にとっても良いと思います。

仲間を募り、具体的な行動に起こす。同時に足元の仕事は手を抜かず、信頼される努力を

間接採用人事部門女性 働き方改革については、社内でも進んでいますが、やはりまだ、制度はあっても現実が追いついていないところがあります。今日の話を聞いて、変えなくてはならない、変えていきたいと思う部分もあります。でも私はまだ管理職ではないので、自分が制度を変えていく立場にないときに、村木さんならどういう風に行動されますか

村木 私も霞ヶ関で、同じような「立場」の問題をずっと抱えてきたんですね。その中で、3つほどやったことがありますので紹介します。

① 仲間を募る

仲間を募るというのは徒党を組むということではなくて、同じ立場にいる人たちの中で、今どういう課題やニーズがあるかを考え、全体を見ながら形にしていく仲間を募る、ということです。さらに加えて、制度変更を担う部署と接点を持てるような仕掛けを作る。霞ヶ関は非常に女性が少なかったので、女性だけの会があったのですが、その会には必ず上司なり人事担当者を呼んでいました。これ、男性にとっては拷問のような会だったようで、「あけぼの会」という会だったんですが、影では「バケモノ会」と呼ばれていたようです。(笑)必ず上の立場の人も来る、そういうネットワークを作ることも大切ですね。

② 言葉だけでなく、形にして具体的な行動を起こす

もう一つ、これはもっと大切なことなのですが、霞ヶ関の各省で実際にやりました。チームで話した課題や改善案、制度変更を望む部分について、すごく考えてかなり立派なレポートにしたんです。それが実は霞が関と国会を動かしたんですが、言葉で言っているだけでは、「そういうこともあるよね」となってしまいますが、具体的に整理して形にして見てもらうことができるようにするのが大事です。

その時に重要なことは、できていないことを悪い、という言い方をすると、大抵うまくいかないので、「私たちもこれをやります、そして一番早くお願いしたいのはこれです」とプライオリティをつける。みなさんが会社でやるときの戦略と一緒ですね。社内と社外で対象が違いますけれども、これをきちんとやると、結果につながります。

③ 足元の仕事をきちんとやる

それと、私がいつも後輩に言っているのは、『自分の足元の仕事ちゃんとやってください』ということです。足元の仕事をやっていない人間が言うと「文句」になりますが、仕事をちゃんとやっている人間が言うと「意見」になる。この違いはすごく大きくて、意見をちゃんと言える形を普段から作っていくと、うまく回るようになります。遠回りに思うかもしれませんが、人間って感情の動物なので、そういうところも含めてやっていくと、上手くいくかな、と思います。

あきらめず努力を続けること、今できることからやること、助けてくれる人を頼って話してみること

間接部門所属女性 何か困難なことに直面したときに、こういった考え方で乗り越えたといった体験があれば、お聞かせいただきたいです。

村木 そうですね、3つほどあります。

① あきらめるまでは失敗ではない

誰かが言っていましたがあきらめるまでは失敗ではないんですね。「やれるかもしれない」と思って努力を続けられるかどうかがけっこう勝負になってくると思うんですよね。

② 今できることにまずは手を付ける

もう一つ、危機の対処法として私が役立ったなと思うのは、まずはどういう条件が整えばできるのかを整理して、今できることに手を付けることです。仕事で失敗するとか、家庭で大きなアクシデントがあったという時には、あれをしたらこれをしたら・・・、いっぱい対処策が出てくるんだけれど、実はすぐにできることって意外に少ないんですよ。たとえば課長がOKしてくれないと得意先に行けないとか、今日は店が閉まってるからできないとか。どうしようと考えていると解決が遠くなってしまうので、物事を整理して「今できること」を早く見つけて、手を付けてしまうとすごく気持ちが楽になるんです。それをやると大きな失敗とか大きな困難も割とうまくいくと思うんです、経験から。

③ それでもダメなら、犬も歩けば棒に当たる作戦

それでも、どうにも行き詰まって解決策がないときってあるんですよね。解決策がないときはどうするか。私はいつもそういうときは、「犬も歩けば棒に当たる」と言ってですね、ふらふら~と何となく話せそうな人のところまで歩くんですね。歩いているうちに、“何か空から降ってくる” というのがあって。勝手に「犬も歩けば棒に当たる」作戦と言っているのですが、手立てがないときはそういう風にする。

その意味では、「助けてくれる人をどれだけ持つか」ということも大切なことです。では、人に恩を売っておけば助けてくれるかと言うと、私の経験から言うとそうではなくて、上手に人に頼って、やってもらった時にちゃんと感謝をしていると、けっこうその人は助けてくれる。それを続けるということもいい方法ではないかと思います。

~最後に~ 村木氏からベルシステム24にメッセージ

最後になりますが、私はぜひ、ベルシステム24が『良い企業』であってほしいと思います。『良い企業』というのは、社員にとっても良い会社、顧客にとっても良い会社、社会にとっても存在価値のある会社、ということです。

さらに、もうひとつ上の目標は、「良い企業であり続ける」ということです。これはすごく難しいことなんですが、きっとみなさんが一緒に、良いチームを組むことで、この会社が良い企業であり続けることは可能だろう、と思っています。

このように申し上げて今日の私の話を終わりたいと思います。ご清聴どうもありがとうございました。


いかがでしたか?

人生100年時代を前に、社会環境も、働き方も、働く意味も変化していく時代が目の前に来ています。これからの日本で、また世界で、次の世代、さらに先の世代の人々が豊かに暮らしていくために、すべての人がこの改革の輪の中にいるのだという意識を持って、いま何ができるのか、今一度考えてみたい。

参加した社員にとっても「働き方改革」に向き合うきっかけになったのではないかと思います。

自分の働く職場は、もっとも身近な改革の場所であり、変革を想像しやすい場所とも言えます。まずは自分の会社を良くする、『良い会社』にするにはどうしたらいいのか。今すぐに答えが出なくても、また困難があっても、あきらめずに粘り強く考え続けていきたい、そう感じた講演でした。

こちらもおすすめ